研究目的

遺伝子発現を化学的に制御する方法論の開発
〜有機化学による生命現象の制御・解明  In Cell Chemistryを目指した有機化学〜

 私たちの研究室では化学の力で生命科学を解き明かしていく(ケミカルバイオロジー)ことを目的に、細胞内の遺伝子発現を制御する化学的ツールの開発を目指し研究を行っています。ヒトゲノム解析の終了が宣言されてから10年あまりが経過しましたが、この間の遺伝子発現機構に関する研究は凄まじい勢いで進展しています。特に遺伝情報の単なる仲介役と考えられていたRNAが実に多彩な機能を持つことが明らかになってきており、複雑な高次生命現象の制御に重要な役割をもつことが指摘されています。特に、ヒトゲノムの98%以上が蛋白質をコードしない非翻訳領域であること、さらにこれらの非翻訳領域を含むほぼゲノム全体がRNAへと転写されていることが明らかにされ、生命科学は新たな時代を迎えています。このようなドラスティックな変化を背景に、細胞内における遺伝子機能の解明はますます重要視されてきています。

 私たちは細胞内の遺伝子機能解明を行う化学的な手法の開発を目指し、遺伝子発現をコントロールできる機能性分子を独自に設計・合成し、さらに細胞内での機能及びその分子の動態を調べ、既存の分子ではできなかった新たな機能を持つ人工分子を開発することを目標に研究を行っています。特に新しい機能を持つ分子を設計・合成する際に、常に細胞内での機能を意識しながら研究を進めることから、「In Cell Chemistry」という新しい分野への展開を考えています。この分野は化学と生物化学の融合が必要とされる分野であり、この中から従来にはなかった新しい科学が生まれてくる可能性があると期待しています。

研究概要

 遺伝子発現機構の破たんは癌をはじめとする様々な病気の原因となることがわかっています。異常となった遺伝子発現機構のみを認識し、選択的にその機構を制御する方法論は病気の原因となる標的に対して論理的なアプローチが可能であると考えられ、新しい治療法さらには創薬の方法論として展開できると期待されています。私たちは、遺伝子発現を化学的に制御する方法論の開発を目指して、主に下記の4つのテーマで研究を進めています。

1)次世代核酸医薬を目指した、架橋反応性核酸の開発
2)DNA,RNAの高次構造を選択的に化学修飾する新規プローブの開発
3)DNA,RNAの高次構造を制御する機能分子の開発
4)DNA,RNAを標的にした擬ロタキサン形成法の開発

1)次世代核酸医薬を目指した、架橋反応性核酸の開発

核酸医薬は
20-30塩基長の人工的に化学合成された核酸分子であり、標的に対して配列選択的に作用できるため、近年、抗体医薬に続く新たなバイオ医薬品として非常に注目されています。現在、核酸医薬として2種類の薬が認可され臨床応用されています。私たちは次世代核酸医薬への適用をめざし、標的に対して選択的に反応する架橋反応性核酸の開発を行っています。標的DNAあるいはRNAに対する架橋形成は核酸医薬と標的間に共有結合を形成させることで、核酸医薬の効率を向上、さらには従来の核酸医薬では制御できない標的に対しても適用できると考えられます。私たちは標的塩基に対する水素結合形成による活性化という設計概念に基づき架橋反応性核酸を設計・合成しました。現在までに下記に示す架橋反応性核酸を開発しており、それぞれ標的塩基に対して非常に選択的に反応することを明らかにしています。

さらに1を含むオリゴ2’-OMeRNAを用いて蛋白質発現の阻害、及びmiRNA阻害による蛋白質発現の活性化に成功しています。架橋反応性核酸2は非常に反応性が高く30分で約60%の収率で反応が進行することがわかっており、現在細胞内における遺伝子発現制御に向けた検討を行っています。

2)DNA,RNAの高次構造を選択的に化学修飾する新規プローブの開発

生体分子に対して選択的に化学修飾するプローブの開発は、生体分子の機能解明や機能制御を行う上で非常に重要であると考えられます。私たちは(1)の研究項目で開発した、水素結合を形成することで活性化される核酸塩基の構造に基づき、
DNAあるいはRNA高次構造中にある疎水環境下で反応できるプローブを設計しました。これらのプローブは、標的DNAあるいはRNAに対して親和性を持つ構造及び疎水環境下で標的塩基に対して水素結合形成により活性化され反応する構造ユニットの導入により設計しました。この設計概念に基づき設計・合成したプローブが、疎水空間を持つDNA構造の一つである、塩基欠損部位の向かいの塩基に対して選択的にアルキル化反応が進行することを明らかにしています。現在さらにその反応性向上を目指して研究を行っています。
(新学術領域 計画班: 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製

3)DNA,RNAの高次構造を制御する機能分子の開発

DNA,RNA
の高次構造が遺伝子発現を制御する上で重要な機能を持つことがわかってきています。例えば左巻構造を持つZDNAは多くの癌で見出されていることがから疾患との関連が示唆されています。さらにRNAの高次構造変化は蛋白質発現の活性化あるいは不活性化に働くことがわかってきています。これらの高次構造を制御する機能分子の開発は、遺伝子発現を制御する上で非常に重要であると考えられます。私たちはこれらの機能分子の開発をめざし研究を行っています。


4)DNA,RNAを標的にした擬ロタキサン形成法の開発

核酸化学に超分子化学の考え方を融合させ、新しいケミカルバイオロジーツールの開発、創薬コンセプトの構築を目指し研究を行っています。現在、機能性核酸や機能性低分子化合物により標的DNAやRNAに対して擬ロタキサンを形成する新しい技術の開発を行っています。(新学術領域 公募研究:分子ロボティクス




研究設備

基本的な有機合成を行うための環境が整っています。
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